珈琲を飲みながら、そこの喫茶店においてある「海炭市叙景(佐藤 泰志著)」という小説を読んでいました。全部読み終わらなくて、あと一回読んだら読み終わります。

作者は函館出身の方で、海炭市というのは、要するに函館のこと。
小さなエピソードの集合体。
それぞれに、ある種の泥臭さがあるんだけど、フィルタごしに見えてくる悲哀というか、どこか醒めた眼差しみたいなものを感じます。

私は函館にきてあまり泥臭い経験をしたことがないです。
昔、本町のスナックで飲んでいて、その後、ラーメン屋でラーメン食べていたら、ホステスさんからメールがきて「もっと話がしたい」という……。
その後、よくある現象で、そのスナックの隣のメンズバーで飲みますた。
私がアニメ好きだと言うと、その娘はカラオケで「微笑みの爆弾(幽遊白書)」を歌ってくれて、それがビビるほど上手くて、それだけでも「函館にきて良かったな〜」と思えた。

その店を出て、階段を下りていったら、マスターがこっそり下りてきて、「ちょっと君君、よく知らんが、その女には気をつけたまえ」と言ったっさ(突然函館弁)。
で、またタクシーに乗り込んだときに、乗り込みざまに、その娘が、
「菊水小路」
とだけ言って、運転手が無言で大門向かって走っていったのを、格好いいな〜と思ったりした。

菊水小路で、
そういえば、何で突然自分語りが始まったんだっけ?
まいっか。
のお店で、さらにグダグダ飲んでいたら、やっぱりその娘は暴れだして、氷のピックをいきなりつかんで刺そうとするんだけど、マスターも良く知っているから、手を伸ばした瞬間にさっとピックを引っ込めたり、その後何食わぬ顔で、タンバリンを叩きながら「さっ。次は何を歌うのかなっ」とか言ったりした。
それでも凶暴に殴ってくるので、そのうち殺されると本能で感じた。

そこで私は、やむなく女の子作戦をとることにした。
「いったぁーい。もう、最悪だよぅ。どうしてそういうことするのかなあ? 女の子には優しくしないとダメなんだからねっ」とか言いながら、その娘の左手をぎゅっと抱きしめるようにして、相手との間合いを逆に詰めた。

ネットゲームとかでも、予期せぬ相手の攻撃を受けたときには、逆に間合いを詰めるようにして逃げると、被害が少なく逃げ切れることがある。

マスターが「お前ら、関係が逆じゃないの?」と言った。
それでその娘もちょっとその気になって、「おう、、、まあ、、、お前、、、かわいいやつだな。。。」とか、しどろもどろになって低い声で言ったはいいけど、その後、すっかり黙り込んでしまった。
無事ラッシュを乗り切った私は、いまさら左隣の女性に、
「すみません。騒々しくて……」
と言うと、その女性は、
「あはっ。私が? 今、私が気をつかわれたの? あははははっっ!」
と変な笑いが止まらない様子だった。
その後、私は変なスイッチが入ったので、歌いなれたアニメソングとかを臆面なく次々と歌い、完全に場を制したのであった。

お店を出たら、空は真っ白で、今より一世代前の函館駅が遠くに見えて、その向こうに赤いゴライアスクレーンも見えて、ああ、本町で飲んでたのに、今は大門にいるんだな〜ということを再確認したっけ。

私にとって、大門の思い出っていうと、後にも先にも多分、それしかないと思う。

思えば、あの頃は若かった。アニソンの歌い方も忘れたし、今は無理。