物事を正しく「推理」するということの面白さと寂しさ。見た目の印象に左右されず、幾つかの手がかりを見逃すことなく、あらゆる可能性を1つ1つ考え抜くこと。それは結果として、頭の中のモヤモヤを晴らすことになると同時に、1つのことが私たちの中で「終わり」になってしまうことも意味する。
当然、感謝されないこともあり、苦い思い出にもつながっていく。
そんなこんなで、高校生になる小鳩常悟朗は中学校時代に才気をひけらかした反省を踏まえて、自分を控えめにし「小市民」として生きることを決意する。たまたまよく似た決意の女の子、小山内ゆきと知り合い、パートナーを組む。彼らの言い分は面白い。それは決して恋愛でもなく、依存関係でもない、「互恵関係」であるという。お互いがお互いに小市民であるために締結した同盟軍みたいなものなのだ。
それでやっていることと言うと、小山内さんの誘いで、あちこちの洋菓子店からケーキその他を買ってきて、一緒に食べること。しかもとってもおいしそうに食べる。そしてたまに謎解きをする。
どうみても上手とは言えない、1対の絵画の秘密とか。
おいしいココアの入れ方とか。
私は恋愛経験がないので、よくわからないのだけれど、そういう風にして過ごしていても、それは恋愛関係ではないのだという。そういう仕方。どうということもない、普通の小規模な街の日常の出来事として描かれているのも良い。いかにも小市民達の活躍の舞台にふさわしい街なのだろう。
今年、秋期限定が出るときいて、あらためて読み直してみた。ここ数年の私の生活行動にささやかな影響をもたらした。春期限定はどちらかというと2人の互恵関係が確立するまでの小競り合いみたいなものなので、そのまま一気に夏モードに突入したい。
春期限定いちごタルト事件
米澤穂信創元推理文庫,ISBN4-488-45101-2)